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数理統計学勉強会についての紹介

こんにちは。株式会社エイトハンドレッド アナリティクス本部の上田です。

本日は社内で実施している数理統計学勉強会の内容や様子を少しでもお伝えできればと思います。


なぜ数理統計学の勉強会に参加するのか

私はデータアナリストとして日々業務に取り組んでいます。 具体的には、お客様から課題を伺い、データを用いることでどんな数値を出せば答えが出せるかを考え、分析方針の設計を行い、その後、データを分析し、得られた結果を基に課題解決方針についてお伝えします。

その際に議論によっては「なぜこの手法が最適なのか」「分析の前提が満たされない場合はどうなるのか」といった質問を受けることがあります。こうした質問に正確に、早く答えることは、エイトハンドレッドのアナリストとして必須のスキルです。

そのためには、分析を実装できるだけでなく、数理的に正しい理解が伴っている必要があると考えています。こうした意識から、よく知られた分析手法でも、その理論や数理的性質についてより深く知りたいという有志メンバーが集まり、勉強会を開催しています。

もちろん、私個人として知的好奇心を満たせるという目的もあって参加しています。


何を読んでいるのか

現在輪読会で読んでいる本はこちらです。

竹村彰通『現代数理統計学』学術図書出版社

www.gakujutsu.co.jp

この本は、数理統計学の基礎的な概念、標準的な理論を数学的説明だけでなく、言葉で丁寧に解説しています。 そのため、統計学を数理的に深く学びたいが、数学書の読み方に明るくない方にも、比較的取り組みやすい本だと思います。

ちなみに、エイトハンドレッドは社員スキルアップに対する投資を惜しまない文化があり、自己研鑽のために書籍を経費で購入することができます。


どう進めているのか

週に一回1時間、オンラインで実施をしています。 アナリティクス本部のメンバーを中心に5名が参加しており、各章を分担して持ち回りで担当をしています。

メンバーがモチベーションを保ちながら進めるために、個人でどうしても理解できない部分については、勉強会の中で時間をとってディスカッションをしています。 たとえ数ページしか進まなくても、数式のギャップや定理の主張への理解が深まることを優先して、あえて時間をかけることもあります。


実際の勉強会の様子

この日は私がスピーカーで、「十分統計量」に関する以下の内容をトピックとして扱いました。

  • 十分統計量の定義とその意義
  • 分解定理を用いることでの十分統計量の証明
  • 正規分布や一様分布での分解定理の適用例


勉強会がどういったことに役に立つのか

1. 統計手法の応用が利くようになる

業務のキャッチアップには専門書や論文等を読みつつ、時には実装パッケージのコードを解読したりすることもあります。
以前は数理面の理解が浅く、計算ロジックを正しく理解できないため、パッケージでできる範囲以上の応用が難しい状態でしたが、 数理的に各統計手法とその理論を理解しておくことで、統計手法をビジネスに応用できるようになり、様々な課題に対応できるようになりました。

実際に案件で「一般化線形モデル」を扱う機会がありました*1。 その際、R言語で予測区間の算出を実装したのですが、プリインストールされたpredict関数だと一般化線形モデルには対応しておらず予測区間が算出できないという課題がありました。 勉強会を通じて各分布の特徴やそのパラメータについて詳細に理解していたため、{ciTools}パッケージのドキュメントを参考に、一般化線形モデルから予測区間を算出する関数を自作することができました 。

2. わかりやすく伝える能力が鍛えられる

『現代数理統計学』は、数理統計の複雑な理論について言葉で丁寧に説明されています。 一方で、定理の証明や数式の展開、測度論などが前提になるような、高度な議論は省略されている場合もあります。 勉強会では、省略されている記述が何かを特定し、丁寧にギャップを埋めることと、その上で、その定理がなぜ重要なのか、どういったことに役に立つのかを分かりやすく伝える力を鍛えています。

業務でも伝える力は重要です。 分析の支援において、将来的にはお客様が分析を内製化できる状態が、支援を受け続ける状態よりも健全だと考えていますが、そのためには、分析より得られた結論だけではなく、その分析手法のメリットデメリット、結果の解釈の仕方も含めてレクチャーすることが重要です。 こうした場面でこそ、勉強会で磨いている「わかりやすく伝える力」が大いに活きると考えています。

3. 個人のスキルアップにつながる

統計検定の準1級を受験をし、無事合格することができました。

データ分析を業務で行っているため、自身の統計分野の専門性をアピールする材料として取得したいと考えていた資格でした。
はじめに『統計学実践ワークブック』を購入し着手し始めたのですが、前半の確率母関数や諸々の確率分布、漸近理論の部分が難しく感じてしまい、式をただ暗記している状態でした。

勉強会で数理統計を扱いメンバーとディスカッションをすることで、確率母関数、積率母関数、特性関数のつながりや使い分け、何の役に立つのかといったことを体系立てて理解することができました。
おかげで独力のみよりもはるかに効率よく勉強することができ、当初の想定より短い半年の勉強期間で合格することができました。

勉強会のメンバーには本当に感謝しています。

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さいごに

エイトハンドレッドでは様々な専門性を持った方が多く在籍しています。また、数理統計学以外でも様々な勉強会が開催されており、個々がスキルアップを図る上で最適な環境です。

  • 統計的因果推論の勉強会
  • 個々のナレッジをシェアする会
  • 中小企業診断士の資格を目指す会
    etc...

マネージャーの方々もこうした勉強会に参加してスキルアップをされています。 プレイヤーの私も負けじと、今後も積極的に参加していきたいです。


エイトハンドレッドでは、一緒に働く仲間を募集しております!
興味を持っていただけた方はぜひ採用ページもご覧ください。

*1:一般化線形モデル(GLM)とは、データのばらつきを正規分布以外の任意の分布に適用することができる統計モデリング手法です。代表的なものには、ロジスティック回帰モデル、ガンマ回帰モデル、ポアソン回帰モデルがあります。